温泉分析書の見方


 温泉に行くと、浴室や入口に温泉分析書が掲示されていることがあります。これは、その温泉の状態を一番詳しく書いたもので、これが理解できると、温泉の成分や適応症(効能)などがよくわかって、温泉巡りの楽しみが増大します。しかし、しっかりとした知識がないと数字ばかりが並んでいて、わかりにくいものです。そこで、実際の温泉分析書の見方をわかりやすく解説してみました。以下の分析書の項目をクリックすると説明が出てきますので見てみて下さい。この中で「温泉の判定」とあるのは温泉法で温泉となるための基準値を示してあり、これを1つでもクリアしていれば温泉となります。また、「療養泉の規定」とあるのは、1978年に改正された「環境庁鉱泉分析法指針」によって特に治療の目的に供しうるものとして規定された療養泉の基準値を示していて、これをクリアしていれば、その泉質名が付けられ、適応症(効能)を掲げることができます。以下の温泉分析書の中の赤字の部分は私が加えた説明の部分です。

温泉分析書 
源泉名:○○温泉(源泉名 △号源泉)
湧出地:○○県△△郡□□町◇◇◇3番地

1.湧出地における調査及び試験成績

(1) 調査機関及び試験者 : ○○県保健環境センター 氏名 △△△△
(2) 調査及び試験年月日 : 平成○年○月○○日
(3) 源泉温度 : 48.3℃  (気温28.0℃) ←温泉の判定(25℃以上で温泉)、泉温分類に関係
(4) 湧出量 : 773�g/分  (動力揚湯) ←毎分何リットル湧出するか量ります
(5) 知覚的試験 : 無色澄明、無味、無臭 ←色覚、味覚、臭覚による試験
(6) pH値 : 8.2 (ガラス電極法) ←液性分類(アルカリ性、中性、酸性)に関係
(7) ラドン含有量 : 1.6マッヘ/�s ←温泉の判定、泉質名(放射能泉)の決定に関係
5.5マッヘ以上で温泉、8.25マッヘ以上で放射能泉

2.試験室における試験成績

(1) 試験機関及び試験者 : ○○県保健環境センター 氏名 △△△△
(2) 分析終了年月日 : 平成○年○月○○日
(3) 知覚的試験 : 無色澄明、無味、無臭
(4) 密度 : 0.9993 (20/4℃) ←比重(重量/体積)のことです
(5) pH値 : 8.57 (ガラス電極法)
(6) 蒸発残留物 : 1.250g/�s (130℃) ←蒸発皿で蒸発させた残りの物の重量です

3.試料1kg中の成分・分量及び組成

(1) 陽イオン
ミリバル%は各成分のミリバル値の比率を%であらわしたもので、最も多い成分が主成分、20%以上のものが副成分となる
↓                      
成分 ミリグラム ミリバル ミリバル% 温泉の判定 療養泉の規定
水素イオン ― ― ― 1�r以上 1�r以上で酸性泉
リチウムイオン 0.1 0.01 0.05 1�r以上
ストロンチーム 2.1 0.05 0.26 10�r以上
ナトリウムイオン 133.9 5.82 30.34 ☆
カリウムイオン 2.2 0.06 0.31
カルシウムイオン 265.2 13.23 68.99
マグネシウムイオン 0.1 0.01 0.05
アルミニウムイオン ― ― ― 100�r以上でアルミニウム泉
鉄(�U)イオン ― ― 計10�r以上 計20�r以上で鉄泉
鉄(�V)イオン ― ― ―
銅(�U)イオン ― ― ― 1�r以上で銅泉
バリウムイオン ― ― ― 5�r以上
マンガン(�U)イオン ― ― ― 10�r以上
陽 イ オ ン 計 �@ 403.6 19.18 100.0
(2) 陰イオン
ミリバルはミリグラム当量のことで、各成分のミリグラム値をその当量で除したもの
↓           
成分 ミリグラム ミリバル ミリバル% 温泉の判定 療養泉の規定
フッ素イオン 0.3 0.02 0.12 2�r以上
沃素イオン ― ― ― 1�r以上
臭素イオン ― ― ― 5�r以上
塩素イオン 40.9 1.05 6.72
硫化水素イオン ― ― ― (a)
チオ硫酸イオン 0.3 0.01 0.06 (b)
硫酸水素イオン ― ― ―
硫酸イオン 752.1 15.65 91.40
炭酸水素イオン 16.8 0.28 1.64 ☆
炭酸イオン 0.2 0.01 0.06
硝酸イオン ― ― ―
ヒドロヒ酸イオン ― ― ― 1.3�r以上
水酸イオン ― ― ―
陰 イ オ ン 計 �A 810.6 17.12 100.0
                         ☆重炭酸ソーダ340�r以上で温泉
(3) 遊離成分
   ミリモルは各成分のミリグラム値をその分子量で除したもの
↓
非解離成分 ミリグラム ミリモル 温泉の判定 療養泉の規定
メタケイ酸 56.1 0.72 50�r以上
メタホウ酸 1.2 0.03 5�r以上
メタ亜ヒ酸 ― ― 1�r以上
非解離成分計 �B 57.3 0.75
�@+�A+�B
溶存物質総量(ガス性のものを除く) : 1.272g/�s  ←温泉の判定(1g以上で温泉)、泉質名(塩類泉)決定、
 浸透圧分類(高張性、等張性、低張性)に関係
(4) 溶存ガス成分
溶存ガス成分 ミリグラム ミリモル 温泉の判定 療養泉の規定
遊離二酸化炭素 1.1 0.02 250�r以上 1,000�r以上で二酸化炭素泉
遊離硫化水素 ― ― (c)
溶存ガス成分計 �C 1.1 0.02
                  (a)+(b)+(c) 計1�r以上で温泉、計2�r以上で硫黄泉
�@+�A+�B+�C
成分総計 : 1.273g/�s

(5) その他微量成分
成分 ミリグラム 成分 ミリグラム 成分 ミリグラム
総砒素 0.01以下 銅イオン 0.01以下 総クロム 0.02以下
総水銀 0.0005以下 鉛イオン 0.05以下
液性分類
↓
4.泉質 : カルシウム・ナトリウム−硫酸塩泉 (低張性 弱アルカリ性 高温泉)
<旧泉質名 含芒硝−石膏泉> ↑ ↑
浸透圧分類 泉温分類
5.禁忌症、適応症  温泉分析書別表に記載
 

 いかがでしたか。この温泉分析書はどの項目で温泉法の基準に適応していたのでしょうか、わかりますか?

�@温泉法の基準への適応を見る3つのポイント(源泉温度、溶存物質総量、特殊成分)。

第1は、上表1.の(3)源泉温度の項目が、48.3℃で、25℃以上ですので温泉の基準に適応しています。

第2は、上表3.の(3)の末尾の容存物質総量の項目が、1.272g/�sで、1g以上ですのでこれも温泉の基準に適応しています。

第3は、上表3.の(3)のメタケイ酸(特殊成分の1つ)の項目が、56.1mgで、50mg以上ですのでこれでも温泉の基準に適応しています。

従って、以上3つのポイントで温泉の基準に適応しているわけですが、これはいずれか1項目だけでもOKなのです。

 さて次に、この温泉分析書で泉質名はどのようにして決定されるのか考えてみましょう。

�A泉質名決定のルール。

 泉質名は、1978年に改正された「環境庁鉱泉分析法指針」によって特に治療の目的に供しうるものとして規定された療養泉の基準値をクリアしていれば、付けることができます。この温泉分析書で、温泉の基準に適合した3つのポイントの内で、泉質名の決定に関係するのは、第1と第2です。第3のメタケイ酸は温泉の判定には関係しますが、療養泉を決定する特殊成分(遊離二酸化炭素、銅イオン、総鉄イオン、アルミニウムイオン、水素イオン、総硫黄、ラドンの7つ)の基準にはなく、いくら多く含まれていても泉質名の決定には関係有りません。また、第1の源泉温度は、第2の容存物質総量が1g以下で、療養泉を決定する特殊成分も規定以下の時に、25℃以上の温泉に単純温泉又はアルカリ性単純温泉(pH8.5以上のとき)の名前を付けるのに関係するだけです。従って、ここでは、第2の容存物質総量に注目し、その含有イオンの割合によって塩類泉としての泉質名が決まることになるのです。

 それでは、上表3.の(1)陽イオンと(2)陰イオンの表を見てみましょう。

�B塩類泉としての泉質名の決め方。

 塩類泉としての泉質名を決めるのには、まず、(1)陽イオンと(2)陰イオンの表のミリバル%の欄に注目し、それぞれの表で最も割合の大きいイオンが主成分となります。ミリグラムの大小ではありませんので注意が必要です。それが、“陽イオン名−陰イオン名“の形で表されて泉質名となるのです。そこで、陽イオンの主成分を見てみると、カルシウムイオンが、68.99ミリバル%とトップです。陰イオンでは硫酸イオンが、91.40 ミリバル%で断然トップですので、“カルシウム−硫酸塩泉“と考えていいように思いがちです。しかし、ここで副成分を見てみる必要があります。ミリバル%で20%以上の成分は副成分として、主成分の次に表記しなければならないからです。陰イオンでは、それに該当するものがありませんが、陽イオンではナトリウムイオンが、30.34ミリバル%含まれていますので、これを表記して“カルシウム・ナトリウム−硫酸塩泉“としなければならないので す。これで終わりかというと、あと特殊成分をチェックしなければなりません。7種類(遊離二酸化炭素、銅イオン、総鉄イオン、アルミニウムイオン、水素イオン、総硫黄、ラドン)の特殊成分が規定以上含まれている場合には、それも表記しなければならないからです。この場合にはそれに該当するものがありませんので、やっと“カルシウム・ナトリウム−硫酸塩泉“の泉質名が確定することになります。ちなみに、これを旧泉質名で表してみると、「含芒硝−石膏泉」となるのです。

 これで、やっと泉質名が確定し、それに基づいて禁忌症、適応症(効能)が決まります。

�C禁忌症、適応症の決定基準。

 1983年に環境庁では、「温泉の適応症決定基準」を定めていますが、その中で『...温泉成分のみによって各温泉の効用を確定することは困難であるが、療養泉の適応症はおおむね別表1、一般的適応症及び別表2、泉質別適応症によること』となっていて、現行では「環境庁鉱泉分析法指針」で9種類(�@塩化物泉、�A炭酸水素塩泉、�B硫酸塩泉、�C二酸化炭素泉、�D含鉄泉・含銅−鉄泉、�E硫黄泉、�F酸性泉・含アルミニウム泉、�G放射能泉、�H単純温泉)に分類されて、適応症が例示されているのですが、掲示は義務づけられていません。禁忌症も同じように例示されていますが、こちらの方は温泉法第13条で温泉施設内への掲示が義務づけられています。

 ちなみに、この温泉分析書の泉質名“カルシウム・ナトリウム−硫酸塩泉“は「環境庁鉱泉分析法指針」の硫酸塩泉に該当し、以下のような適応症と禁忌症が例示されています。しかし、特定の源泉については、別表に掲げる以外の伝統的適応症について専門的知識を有する医師の意見を聞いて定めることができるともされています。

*一般的適応症
 【浴用】神経痛・筋肉痛・関節痛・五十肩・運動麻痺・関節のこわばり・うちみ・くじき・慢性消化器病・痔疾・冷え症・病後回復期・疲労回復・健康増進
*泉質別適応症
 【浴用】動脈硬化・きりきず・やけど・慢性皮膚病
 【飲用】慢性胆嚢炎・胆石症・慢性便秘・肥満症・糖尿病・痛風
*一般的禁忌症
 【浴用】
急性疾患(特に熱のある場合)・活動性の結核・悪性腫瘍・重い心臓病・呼吸不全・腎不全・出血性疾患・高度の貧血・その他一般に病勢進行中の疾患・妊娠中(とくに初期と末期)
*泉質別禁忌症
 【飲用】
下痢の時・腎臓病・高血圧症・その他一般にむくみのあるもの

 さて、温泉分析書が少しでもご理解いただけたでしょうか?少しはわかったという方は、試しに、温泉分析書に関する問題の例題にチャレンジしてみませんか。やってみようという方は以下をクリックして下さい。

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