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古(いにしえ)を訪ねる旅
 日本の伝統的な民家形式
白川郷の合掌造り(岐阜県大野郡白川村) 坪川家住宅の外観(福井県坂井市丸岡町)

☆伝統的な民家形式

 民家は農山村の住居として、その土地毎に工夫された、工法、間取り、材料で作られてきました。南部地方(岩手県)の曲家、北陸地方の中門造り、武蔵野(東京都、埼玉県)の兜造り、白川郷(岐阜県)の合掌造り、有明海沿岸(佐賀県他)のくど造りなど様々な形態のものが、その地方の農村の景観を形作ってきました。しかし、戦後農山村の過疎化が進み、新しい工法による、文化住宅やプレハブ住宅などが増えるなかで、古くからの民家は激減し、稀にしか見ることが出来なくなってしまいました。その中で、地方を代表する古民家を国の重要文化財に指定し、保存しようとする動きが出てきたことは喜ばしいことだと思います。


☆日本の伝統的な民家形式分布図


(1) チセ<北海道>

 北海道や千島列島、樺太の先住民族であるアイヌの集落(コタン)にある伝統的な住居建築です。3間×4間、または2間×3間の1室造りで、セム(前室・玄関兼物置)と呼ばれる張り出しが付いた間取りです。構造は、掘っ立て柱を立て、柱に梁・桁を載せ、屋根を支えた寄棟の家屋となっています。屋根や壁は、茅・笹・葦などの材料で葺いていて、内部の中央やや入口寄りに炉を切り、火棚もつられています。

ポロトコタンのチセ(北海道白老郡白老町) ポロトコタンのチセの家並(北海道白老郡白老町)


(2) 南部曲り家<岩手県>

 L字形の平面をした家屋で、母屋と厩(馬屋)が一体化しているものを曲り家(曲屋)といい、南部地方(岩手県)に多く分布していたのでこの呼び方がされています。この地方のものは、寄せ棟づくりの屋根がカギ型に連なり、馬屋が母屋と一つになっているのが特徴で、冬は馬が寒かろうと家のなかに取り込んだと言われていますが、現存するものは少なくなりました。岩手県北上市の「みちのく民俗村」には、南部地方の民家20数棟が移築公開されていますが、その中に、旧北川家住宅と旧星川家住宅の2棟の曲り家があって、内部まで見学できます。また、岩手県遠野市の「遠野伝承園」にも、曲り家の国重要文化財旧菊池家住宅があって、見ることが出来るようになりました。

みちのく民俗村の旧北川家住宅(岩手県北上市) みちのく民俗村の旧星川家住宅(岩手県北上市) 


(3) 兜造り多層民家<山形県鶴岡市>

 兜造り多層民家は、月山山麓に多く見られた形式です。月山山麓の田麦俣集落は六十里越街道の要所で、江戸時代に湯殿山への参拝が盛んになると、宿場的性格を帯びました。昔の兜造り多層民家の内部は1階が主に家族の居住用、2階が下男たちの居住用と作業場・物置、3階が養蚕と作業用の「厨子」、さらにその上が物置用の「天井厨子」となっていました。その中で、この地方独特の茅葺き民家が建てられるようになりました。しかし、現在田麦俣に現存する兜造り多層民家は県重要文化財に指定されている「旧遠藤家住宅」と「かやぶき家(民宿)」の2軒だけになってしまい、大変貴重なものです。これ以外に、鶴岡市の「致道博物館」に移築された旧渋谷家があります。民宿「かやぶき家」に泊まったことがありますが、私はもうこの姿を見ただけで、とても気に入ってしまいました。その重量感といい、色合いといい、曲線といい....感動するほど美しい屋根でした!連休中ということで、満員でしたが、囲炉裏のある広間でくつろいで、同宿となった年配の2人の男性と話してから入浴し、風呂から上がってすぐに夕食となりました。囲炉裏端に席が作ってあって、山菜や川魚など地元で採れたものや自家製の珍しい料理がたくさん並んでおり、岩魚が串刺しとなっていて食べてもらえるのを待っていました。その威容に再び、感激してしまったのです!こんなに食べさせてもらっていいのだろうか?しかも、この低料金で...。さっそく、お酒を冷やでたのんで、飲みかつ食べはじめた。同宿の人達ともなごやかに談笑しながらの楽しい夕餉となったのです。思い出深い、民宿の一夜となりました。

兜造り多層民家「旧遠藤家」(山形県鶴岡市田麦俣) 兜造り多層民家「かやぶき家」(山形県鶴岡市田麦俣)


(4) 中門造り<新潟県・秋田県他>

 主屋の一部に中門と呼ばれる突出部をもつもので、突出部には主屋への通路、厩(馬屋)、便所等を設けたり、物置に用いたりしていました。北陸地方から東北地方の日本海沿岸地域に多く見られましたが、雪の積もった冬に出入りがしやすいように、玄関部分を出っ張らせたものだと言われています。現在は、少なくなってきていますが、福島県南会津郡南会津町の前澤集落には、古い中門造りの民家が多く保存されていて、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されました。また、旧目黒家住宅・旧佐藤家住宅(新潟県魚沼市)、旧奈良家住宅(秋田県秋田市)、鈴木家住宅(秋田県雄勝郡羽後町)、旧矢作家住宅(山形県新庄市)などの中門造り民家が、国指定重要文化財として保存されていて見学することも可能です。

中門造りの民家(福島県南会津郡南会津町前澤) 旧目黒家住宅(新潟県魚沼市) 


(5) 富士系合掌造り<山梨県・東京都多摩地方>

  山梨県から東京都多摩地方に分布し、屋根の形が兜に似ているところから、かぶと式、カブト造りともいわれますが、正式には「富士系合掌造り」と呼ばれています。この形式の民家は、入母屋の二重兜造りという屋根が特徴で、内部は四層に仕切られおり一階と二階は普通の部屋、その上に三階と四階の板の間になっています。ここも昔は、養蚕が盛んに行われた為に、上層に養蚕室を持った多層構造の大型民家に発展し、外光を取り込む為にこのような兜造りとなったとのことです。この建物は、クギをほとんど使わず木と木を組み合わせる建築構造になっていました。戦前まで東京都桧原村数馬の家は、この合掌造りがほとんどだったそうですが、現在では、完全な合掌造りは4軒を残すのみとなっています。

富士系合掌造り民家(東京都檜原村数馬)


(6) 本棟造り<長野県>

 正方形の間取り、板葺きのゆるい勾配の屋根の切妻造・妻入りで、烏威(雀おどし・雀踊り)と呼ばれる棟飾りが特色です。この民家形式は、長野県の中信地方から南信地方にかけて分布し、庄屋や本陣などの住居となっているものが多く見られました。代表的なものとして、長野県内の堀内家住宅(塩尻市)や馬場家住宅(松本市)、曽根原家住宅(安曇野市)、竹ノ内家住宅(下伊那郡高森町)が、国指定重要文化財となっています。

馬場家住宅正面(長野県松本市) 堀内家住宅の「雀踊り」(長野県塩尻市)


(7) 合掌造り<岐阜県・富山県>

 傾斜が急で大きな茅葺きの切妻屋根を持ち、手を合わせた姿(合掌)をしているのでこの名があります。この民家形式は、白川郷(岐阜県)から五箇山(富山県)にかけて分布し、昔は数十人の家族が住んでいて、屋根裏を三、四層に分けて蚕室に用いて、養蚕をしていました。現在、富山県南砺市菅沼と相倉、岐阜県白川村荻町の3つが合掌造りの集落として、重要伝統的建造物群保存地区に指定されて保存処置が講じられています。また、1995年(平成7)には、白川郷の荻町、五箇山の菅沼と相倉は、「白川郷・五箇山の合掌造り集落」として、世界遺産(文化遺産)にも登録されました。

相倉の合掌造り集落(富山県南砺市) 荻町の合掌造り集落(岐阜県白川村)


(8) 入母屋造り<滋賀県北部・福井県若狭・丹波・丹後・但馬・大阪府能勢地方>

 滋賀県北部、福井県若狭地方、丹波・丹後・但馬地方、大阪府能勢地方などには、入母屋造りの茅葺民家が分布していました。妻入りと平入りの2つのタイプがあり、破風が大きいのが特徴とされています。京都府南丹市美山町内には、このタイプの茅葺き民家が多数現存していますが、とりわけ北地区は、50戸の内38戸が茅葺き屋根の古民家で、昔ながらの村落景観を維持しています。そのことが評価されて、1993年(平成5)、周囲の水田と山林を含む集落全体127.5haが、国の重要伝統的建造物群保存地区として選定されました。この集落に現存している茅葺き屋根の家屋の多くが、江戸時代中頃から末期にかけて建てられたものであり、丈の高い入母屋造の屋根と神社の千木のような飾りが特色となっている「北山型民家」に分類されるものです。これ以外の代表的なものとして、近江風土記の丘にある旧宮地家住宅(旧滋賀県長浜市)、日本民家集落博物館にある旧泉家住宅(旧大阪府豊能郡能勢町)、田中家住宅(滋賀県伊香郡西浅井町)、丹後郷土資料館にある旧永島家住宅(旧京都府竹野郡丹後町)などが国指定重要文化財となっています。

かやぶきの里の北山型入母屋造り民家(京都府南丹市美山町) 日本民家集落博物館にある旧泉家住宅(旧大阪府豊能郡能勢町)


(9)大和棟<三重県・奈良県・大阪府>

 急勾配の藁葺き屋根の両妻部分を瓦葺きにして、一段低く緩勾配の屋根を設けたもので、両妻側が壁土または白漆喰で塗り込めてあり、高塀造りとも呼ばれています。奈良盆地・大阪府河内地方・三重県伊賀地方に多く見られ、切妻の白い漆喰壁と屋根の対象性が美しく、江戸時代には大庄屋、庄屋層などの家の格式を示す形式でした。明治時代以降は一般農家にも普及するようになりましたが、冬の乾燥期の火災防止の意図があると考えられます。代表的なものとして、吉村家住宅(大阪府羽曳野市)や中家住宅(奈良県生駒郡安堵町)、藤田家住宅(奈良県生駒郡平群町)、高林家住宅(大阪府堺市北区)などが国指定重要文化財となっています。

大和棟の桃林堂板倉家住宅(大阪府八尾市) 大和棟の吉村家(大阪府羽曳野市)


(10) くど造り<佐賀県・福岡県・大分県・熊本県>

 寄棟造りの草屋根の棟がくど(かまど)のようにコの字形をして、台風に強い構造を持っていました。2間梁の上に扠首(さす)を上げて屋根を組みあげるのが特色です。この民家形式は、熊本県北部から筑後川流域、佐賀県の有明海沿いにかけて分布していましたが、現在はとても少なくなりました。代表的なものとして、平川家住宅(福岡県うきは市)、旧矢羽田家住宅(大分県日田市)が国指定重要文化財となっています。また、佐賀県多久市の西多久公民館前には、町川打家住宅(国指定重要文化財)と森家住宅(市指定重要文化財)の2軒が移築されていて、見学、利用ができるようになりました。

平川家住宅(福岡県うきは市) くど造り民家の模式図


(11) 二棟造り<鹿児島県・沖縄県他>

 オモテ、ナカエと呼ばれる二つの棟を一家屋として使う形式で、「ハレ」(公開の、儀礼的な)部分と「ケ」(日常の、私的な)を分けているのが特徴です。太平洋沿岸の房総半島、東海、四国、九州から沖縄まで分布していますが、二つの棟が互に接近して軒を接するものの、内部的には未だ連結されることがなくて完全に独立する揚合(分棟型)と両者間が連結されて一体化する場合(合体型)とに大きく分類されてきました。多くは高床と土間の組み合わせですが、鹿児島の場合は二つの棟とも高床式で、床をつなぐ場合には段差を設けて接続されます。代表的なものとして、二階堂家住宅(鹿児島県肝属郡肝付町)や望月家住宅(愛知県新城市)、日本民家園の旧作田家住宅(旧千葉県山武郡九十九里町)などが国指定重要文化財となっています。

奄美博物館へ移築復元された古仁屋地区民家(鹿児島県奄美市) 二棟造りの二階堂家住宅(鹿児島県肝属郡肝付町)
〇古民家に泊まる
・古民家に泊まる(1) 兜づくり多層民家 民宿「かやぶきや」
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