秘湯めぐりの旅(33)

<名剣温泉−富山県下新川郡宇奈月町>

1997.11.2


*1997年11月2日(日) 新潟市魚津市宇奈月町→名剣温泉 

JR北陸本線で日本海を見ながら

  朝6時過ぎには起床し、7時前にはホテルを出て、JR新潟駅へと向かう。すでに、7時33分発の大阪行き特急雷鳥20号は入線していたが、自由席車両にはまだ誰も乗客がおらず、のんびりしたものだった。とりあえず、荷物を置いて日本海の見える窓際席だけを確保しておいて、雷鳥のヘッマークの入った写真を撮り、朝食用にサンドイッチと缶紅茶をキオスクで買い求めてから、再び車両に戻った。発車時間が迫ってくるとぽつぽつと座席も埋まってきたが、まだガラガラの状態で発車のベルが鳴り響いた。天気も良く、車内も静かで、眠気を催させるような旅立ちだ。長岡駅を過ぎると、上越新幹線からの客も乗り継いで来たが、まだ私は、4人分の席を一人で占領して、足を延ばしていられる状況だった。日本海は北西の季節風を受けて、波が白ら立ち、大きく寄せ返している。ほんとうに、北陸本線は波打ち際を走る、遠方に船が浮かんでいるのをいつまでも追いかけられる。そんな光景に慣れて、少し飽きてきたころに、列車は魚津駅に近づいて来た。2時間半余りの乗車だったが、腰を延ばしながらホームへ降り立っていった。

富山地方鉄道の特急「うなづき号」

・富山地方鉄道に乗り換える

 富山地方鉄道への乗換は跨線橋を渡っていくはずだったが、その表示が見当たらない。改札で聞くと、駅を出て、左の地下道へと言われた。不信に思いながらも、階段を下りて左へ行くと、途中に狭い上り階段があって、その上に小さな駅舎があった。しかし、いかにも狭苦しい所だ。次の宇奈月行きは特急しかないとのことで、乗車券(900円)の他に特急券(100円)を購入させられた。ホームに出てみると、古ぼけたJR線からの跨線橋の入口は閉じられていて、他の乗客も不便になったとぼやいていた。跨線橋が老朽化して危険になったためなのか?不正乗車客を防ぐためなのか?その理由はわからなかった。しかし、入ってきた特急電車は2両編成のなんの変哲もない普通の車両で、これで特急料金を取るのかと釈然としない感じがした。その上、後ろ1両は指定席でさらに指定料金がかかるというので、前1両の自由席に押し込められることになった。とにかく、電車は出発し、目的地向けて快走したが、途中停車駅でない所でもすれ違いのため停まるような有り様だった。まあ、単線だから仕方がないが、特急料金を取るのは考え直してもらえないだろうか。それでも、30分弱で宇奈月温泉駅に到着し、少し歩いて黒部渓谷鉄道のトロッコ電車乗場へと急いだ。

・トロッコ電車に乗る

 しかし、この混雑はなんだ!電車はそれほどでもなかったが、道路には延々と車が連なっている。今は、車で来て、トロッコ電車に乗り継ぐ客の方が圧倒的に多いのだ。出札口には長い列が出来ているが、ここまできたら仕方がない、その後尾について、順番を待つことになった。幸いなことに11時48分発の特別車両の券が一枚だけ残っているとのことで、それを購入した。そうでなければさらに1時間以上待たねばならないところだった。さて、乗る列車は決まったが、今日の宿は決まっていない。とにかく、電話ボックスに駆け込んで、宇奈月温泉の観光案内所にかけてみたが、今日の宿の空きは全く無いとのこと。ちょっと困ったが、連休なので予想されたこと。これからが、腕の見せ所かと、先ず、観光パンフレットに載っている温泉民宿に全部電話してみたがいずれも塞がっているとの返事だった。トロッコ電車の出発時間が迫ってきたので、一端切り上げて、改札に向かうことにした。こういう時はあせっても仕方がない。まあ、なんとかなるものだ。私の乗る特別車両は小さな箱型で窓ガラスがあるが、一般車両の方は屋根はあるものの吹きさらしで寒そうだ。乗り込んだ人は防寒具を身にまとっている。しかし、車両は狭い、一列に4人座るようになっているが、どの車両も満員で皆肩をすぼめて腰掛けている。

黒部渓谷鉄道のトロッコ電車

・すばらしい車窓からの眺め

 走りだしてみると、そのスピードは遅い、時速15km位でガタゴトと揺れていく。まあ、断崖絶壁の曲がりくねった線路のうえ、軌道巾が狭いので致し方ないが、ほんとにゆっくりしたものだ。それでも、車窓からの景色はすばらしく、そのスリルもなかなかなもので、端に座っている人は奈落のそこに落とされるような恐怖を感じているかも知れない。最近では、ジェットコースターに乗り慣れている人が多いせいか、そんな恐怖が受けているのかも………。この線は、関西電力が黒部川電源開発のために敷設したもので、以前は「生命の保障はしません」とのことで便乗を認めていた時代もあったとか。それほどすごい路線で、11月いっぱいまでの運行で、雪のため冬季は休止すると聞いた。紅葉の盛りは10月中頃までで、少し色あせた感じがあるが、渓谷全体に晩秋の趣が漂っていて、これもまた良い。しばらくは、渓谷美に身を乗り出して、見入っていたが、狭い車内に満員の乗客で体を動かすのもままならないのは決して快適な旅とはいえない。途中駅で何度も反対列車との行き違いをするのだが、どの列車も乗客を満載していて、こんな山奥まで多くの人が出掛けてくるようになったものだ感じざるをえなかった。そんな、列車旅も1時間20分で終点欅平駅に到着したが、構内は折り返し列車を待つ乗客でごった返していた。

車窓から見る宇奈月温泉と黒部川 車窓から見る黒部川の清流
欅平付近の黒部渓谷

・欅平駅に降り立つ

 とりあえず、帰りの15時17分の列車を予約し、もう昼を大分過ぎているので、腹ごしらえでもと思って、駅2階にあるレストランに向かった。セルフサービスで岩魚定食( 1,500円)をたのんで、ひとまず空腹を満たしたが、今日の宿泊場所をどこかに確保しなければならない。宇奈月温泉周辺はもう満杯、後は明日の予定も考慮して、少し離れた所をあたってみるしかないのだが………。こういう時は観光案内よりも、電話帳の方が役に立つ場合がある。あまり知られていない、宿屋も載っているからだ。周辺の地名を思い浮かべながら、タウンページの旅館の部を繰っていったら、上市鉱泉の3行広告が目についた。“上市駅から徒歩1分”と書いてある。それなら宇奈月駅から1時間ほどでいけるはずだし、明日の立山黒部アルペンルート行きにも都合がよい、さっそく電話をしてみた。そうしたら、部屋も開いているし、1泊2食付で 7,300円でよいとのことで、感じもよかったので予約することにした。これで、腹も満たし、宿もとれて、後顧の憂いもなくなったので安心して、散策にでかけることにした。徒歩15分のところに名剣温泉というのがあり、露天風呂もあると聞いていたので、そこまでは歩いてみて、できれば入浴してみたいと思ったからだ。途中の散策路にはハイカーがたくさんいて、これが、皆トロッコ電車の乗客だった人だ。渓谷は深く、雪を抱いた山並みも見えて、とても良いコースなのだが、この人出がもうちょっと少なければと思わずにはいられなかった。

・ふいに、名剣温泉に立ち寄る

 名剣温泉の受付で入浴料 600円也を払って谷底へ向かって階段を下りていったが、温泉に入る人は意外に少ないようで、露天風呂には数人の入浴客しかいなかった。ここからの眺望はすばらしく湯加減もとてもよいのだが、隣の女性用露天風呂に行く、女の人からは丸見えになっているのはいかがなものかと思う。聞くと、以前の露天風呂は水害で流されてしまって、新しく作ったとのこと。少し、離れた内風呂の方にも行ってみたが、天然の岸壁を削ったような場所で湯がごぼっごぼっとと吹き出してくるところがとても面白い。温泉好きの私にとっては、ここに入浴できただけで、来た甲斐があったと思える秘湯だった。

★名剣温泉に入浴する。<入浴料 600円>

「名剣温泉」の外観 「名剣温泉」の男性露天風呂 「名剣温泉」の男性用内湯




源泉名 名剣温泉
湧出地 富山県下新川郡宇奈月町黒部奥山
湧出量 30g/分(自然湧出)
知覚 無色透明、殆ど異状味なし、殆ど異状臭なし
泉質 単純温泉
泉温分類 65℃(高温泉)
pH値
液性分類
溶存物質総量 915.652r/s
浸透圧分類 低張性
*一般的適応症(浴用)
 
神経痛・筋肉痛・関節痛・五十肩・運動麻痺・関節のこわばり・うちみ・くじき・慢性消化器病・痔疾・冷え症・病後回復期・疲労回復・健康増進

宿


「名剣温泉」のデータ
標準料金 1泊2食付 14,500〜16,500円(込別)、11月中旬〜5月上旬閉鎖
入浴料金 600円
外来入浴時間 午前10時〜午後4時
宿泊定員 鉄筋4階建 和室11室 
住所、電話 〒938-0200 富山県下新川郡宇奈月町黒部奥山 TEL(0765)52-1355
交通 黒部峡谷鉄道欅平駅より徒歩15分

・富山地方鉄道で上市駅へと向かう

 帰路ものんびりと下っていって、欅平駅に戻ったら、予約した列車にはほど良い待ち時間となっていた。帰路はあえて一般車両としたので、屋根だけで窓ガラスがなく、背もたれもなくて、冷たい風が吹き抜ける。まあ、これもトロッコ列車ならではの風情かとがまんしたが、狭い車内に一列4人詰め込まれ、身動きしにくいのだけはなんとかしてほしいものだ。宇奈月駅に着いて、ホームで体を延ばしてホッとした。下車後は富山地方鉄道に乗り換え、16時43分発の急行富山行きで一路上市駅へと向かったが、車窓はすでに暗くなりかけていた。

旅日記(3)<立山・黒部アルペンルート---富山県・長野県>へ続く

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